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「汽笛一声、青い空 −鹿児島の巻−」


監督:青野 暉
脚本:高橋 二三

主なゲスト
隆の父親・・・ハナ肇
木下さん・・・如月 寛多
紋太さんの父・・・木田 三千雄


 末長隆(すえながたかし)は桜島の見える丘の上で、友達2人に見守られながら桜島大根をかじっていた。
桜島大根を一本生で食べられたらその友達の1人、木下君の家の漬け物工場の煙突を貰うという賭をしていたのだ。
そして見事に一本たいらげ、工場の煙突をはずして自宅である末長鉄工所へ凱旋。

 そこにはスクラップの機関車(K-100号)と、隆に頼まれてそれを直している近所の料理屋の機械好きの青年、伊賀山紋太(いがやま もんた)がいた。
早速その煙突を機関車の煙突として使用、あつらえたようにぴったりだ!

 隆がこのK-100を直しているのには訳があった。
最初の運転士であるおじいさんに会わす為、おじいさんのいる北海道の夕張までこの鹿児島から、なんとK-100に乗って行くつもりなのだ!
 しかし紋太は到底行ける訳がない、馬鹿馬鹿しいと否定的。
それを聞いた隆は激怒!
 「紋太さんにとっては馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、俺にとっては馬鹿馬鹿しい事じゃないんだよ!俺は絶対北海道まで持っていく!」

 そんな時、煙突を取られた木下食品のおじいさんが泥棒と怒鳴り込んできた。しかし話を聞くと、賭に勝って取ってきたと言うことで隆を誉める父。「さすが薩摩隼人じゃ!」
しかしはずみで木下さんがK-100のボディーを叩くといきなり汽笛が鳴り出してどうしても止まらない。そこで隆が来て正面のライトをなでてやると不思議と汽笛がおさまった。「まるで生き物みたいだ・・・」とビックリする大人達。

 さて、自宅の料理屋に帰ってきた紋太は早速口やかましい母、伊賀山 嘉代(いがやま かよ)から「油臭い体で板場に入るな!」と一括!まったく誰に似たのかという口論に、紋太に好意を寄せるお手伝いのノブちゃん
「どっちにも似てませんよ。紋太さん格好いいもん」

 末長鉄工所ではここの所お客に治める部品が紛失するという事件が起きていた。調べると隆が持ち出してK-100のパーツにしているらしい。ボチボチK-100の事を疎ましがられている気配に隆は友達と共に早めに北海道行きを決行する。
しかし商店街で立ち往生して消防車を足止めし、新聞記事になってしまいK-100は売られてしまった。

 そこで隆はK-100を戻してもらうまで工場の屋根に登り、K-100が戻るまで降りないと宣言、そしてK-100は買い戻されるものの動けないように車輪がはずされていた。
お父さんに必死に抗議をしている隆の横でいきなりK-100の汽笛が鳴り出した。
どうしたのかと隆に問う父に隆は、
「泣いとるんじゃ!機関車が足もがれたと言って泣いとるんじゃ!」

 その頃、取材で鹿児島に来ていたフリーカメラマンの岡本節子(おかもとせつこ)は絵はがきの様な風景写真ばかり撮る事にあきあきしていたが、K-100の新聞記事を見てピンと来る物があった。
「機関車消防車を妨害・・・K-100だわ、動き出したのかしら」

 実は北海道のおじいさんから隆君の所に手紙が来たのは、そもそも節子の書いた記事が発端だったのだ。
節子は事情を聞き、「K-100日本縦断記、物になったら大ヒットだわ!又車輪をつけてぜひやるべきよ」と隆をけしかけるが、紋太さんは無理なんだからけしかけないでくれとやっぱりここでも否定的。
それを聞いた隆君は奮起!紋太さんが手を貸してくれないならと自力でK-100に車輪を付けようとしてK-100の下敷きになってしまい足を骨折してしまう。

 その夜、隆の入院した病院でお父さんが隆に諭していた。
「お父さんはな、お前を誰にも負けん様な立派な薩摩隼人に育てたいんじゃ。じゃっどん、お前に万一の事があったら、死んだお母ちゃんは草場の陰で泣いちゅうぞ。わしらはな、親一人、子一人じゃ。お前にもしもの事があったら、残されたお父ちゃんはどうすればいいんじゃ。隆、お前は好きな事したらいいんだぞ。じゃっどん、お父さんを泣かせるような事をしたらいかんぞ」
しかし隆はお父さんがいなくなったら早速松葉杖を持って窓から病室を抜け出してしまった。

 隆がいなくなった事に気が付いたお父さんは紋太さんにも捜索を依頼、手分けして隆君を捜すことにする。

 その頃隆は、何度も転んで泥だらけの姿で線路脇いた。線路に耳を当て、機関車の来る事を知った隆君、目の前を走り抜ける機関車の姿にK-100の姿をだぶらせていた。
機関車が行ってしまっても音を、振動を感じようと線路に耳を当てる隆。涙と嗚咽が後から後から湧いて出て止まらない。


 そんな隆を紋太が見つけ走り寄ってきた。泣きじゃくる隆の姿に紋太さんは声をかける事ができない。
ようやく肩に手をかけると隆君は泥で汚れた顔を上げた。
「隆ちゃん。そんなに北海道に行きたいのかい?」
うなずく隆くん、そんな隆を抱き上げて歩く紋太の心に隆の声が甦ってくる。
『紋太さんにとっては馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、俺にとっては馬鹿馬鹿しい事じゃないんだよ!俺は絶対北海道まで持っていく!』
そして紋太は意を決して隆君に言った。
「行こう。君のK-100を僕が北海道まで持っていくよ」
「紋太さんが!?」
「僕だって薩摩隼人のはしくれだよ」

 翌日、紋太の実家では紋太さんの置き手紙を見てあきれていた。
「隆君の情熱に負けました。隆君の気持ちを汲むと、どうしても僕が北海道に行かねばなりません。留守をよろしく」
格好良いと言うノブちゃん、可愛い子には旅させろと言う父親に対して嘉代は連れ戻す事を決意。
「あの子はあたしの産んだ子です。あたしのもんです。あたしには母親の権利ちゅうもんがあります。どげんな事をしても連れ戻します。」

同じ朝、隆の眠る病室からK-100の汽笛が聞こえて目を覚ました隆。窓を開けるとそこには、今まで泥だらけだったのが綺麗な青い色になり、車輪の代わりにタイヤを付けたK-100から手を振る紋太さんの姿があった。
「隆君、行って来るぞ!」
「頼んだよ、紋太さん」その姿に手を振り返す隆。

 日豊本線を走る機関車(C57)とすれ違い桜島を後ろに国道10号を北上して走るK-100!
快調に走るK-100の姿を節子も見逃さなかった。
「K-100だわ、とうとう動き出したのね!あたしも追っかけなくっちゃ!」

 そんな色々な人達の思惑が交錯する中、北海道を目指して快調に走るK-100。その操縦席の紋太さんの顔がストップモーションになって
(つづく)


「九州は鹿児島から、ゴールは北海道の夕張のおじいさんに会うまで!今、K-100の旅が始まる!」

 記念すべきケー100日本縦断の旅は、昭和48年4月13日のこの放送から始まりました。
メインキャラクターの位置づけ、彼らが何をしたくてどう動くのか、今後のシリーズの基本が詰まっています。
しかし第1話を観て意外に思う事は、主役は隆君でラストシーンまで紋太さんが脇役扱いされている事です。

 この回の紋太は隆に対して妙に現実的で冷たく感じます。それゆえクライマックスの紋太が隆に決意を言うシーンは、震えるようなようなカタルシスがあります。何も予備知識がなくこの話をいきなり観ていたら紋太がケー100に乗ると言う事が予想できたでしょうか?

 今の1話はいきなりイベントを持ってきて視聴者の興味を引きつけるのが主流かと思いますが、このケー100の1話は、大河ドラマの1話のように登場人物達の思惑と感情をじっくり追っていきます。

 そして驚くのは、この泥だらけでスクラップ同然のK-100がいかに動くのか?又機関車が道を走る?というのが最大の見せ場あろうはずなのに、その部分はいとも軽く扱われ、『紋太がいかに旅立つ決意をする事になったか』が最大のポイントになっている所です。

 とにかく全編、じっくり隆のK-100と北海道のおじいさんへの想いを描き、それに答えて旅立つ紋太、この想いの集約が「走れ!ケー100」とい世界観の底に流れ続けドラマを観る者に説得力を与えていきます。
そして毎回毎回おじいさんに会うという目的が劇中で反復され、増幅されて、この想いの蓄積は25話において頂点を迎える事になるという意味でも、素晴らしいプロローグです。そう、1話というよりはこの回はプロローグと言った方がピッタリかも知れません。

 ちなみにこの回の泥だらけのK-100の映像は1〜4話のOPにのみ、一瞬挿入されています。

 さて次回、旅立った早々、K-100は盗まれてしまいます。はたして紋太は取り返す事ができるのか?お楽しみに!

(2003.5/17・改訂up)


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