シナリオ採録「機関車で闘牛士」 脚本・高橋 二三 

放映タイトル『機関車闘牛計画をつぶせ!』

基本的には句読点も含め原文ままですが、誤字や一部の漢字は修正しています。

監督 青野 暉

出演

伊賀山紋太 ・・・大野 しげひさ
岡本節子  ・・・大川 栄子
石橋正彦  ・・・杜澤 泰文

ナオコ(十才くらいの少女)・・・橋本 美佳
正代(その母)        ・・・高村 章子
久男(六年生)        ・・・神谷 信弘
少年A             ・・・山野辺 敦

その他、天草の少年たち

1 九州西部の地図
カメラ、天草に接近。
正彦の声 「ここは熊本県の天草。九州もあとは鹿児島県だけで、沖縄はもうすぐだ」
 
2 天草五橋・一号橋
 
橋のたもとの道端にケー100が置いてある。紋太はいない。
そっと近づく正彦。
正彦の声 「今のうちに、ケー100で金儲けしておかんと、間に合わなくなるな」
正彦、さりげなく運転席の内を覗く。
助手席に、紐で縛った三百枚程の葉書と、ゴムバンドでくくった十枚程の葉書が置いてある。
正彦の声 「ははん、ケー100にきてくれという子供たちの投書だな。これが何か金儲けのネタになりませんかね、と……うん、なります、なりますって!」
正彦、サッと十枚程の葉書の束を引ったくる。
ピーツと鋭くなる汽笛。
横ッ飛びに逃げた正彦、一目散に駆け出して橋を渡る。
 
3 近くの、海の見下せる林の中
 
枯れ枝を拾っている紋太。ピーッという汽笛の音に、オヤ?と足を急がせる。
 
4 一号橋のたもと
 
やってきた紋太、枯れ枝を燃料置き場に入れ、運転席を見てオヤ?となり三百枚程の葉書の束を取り、助手席のあたりを探し求めて、怪訝顔。
通りかかったタクシーが停まり、降り立つ節子。
節 子 「紋太さん、どうしたのよ」
紋 太 「やあ、節子さん、おかしなことがあったとです。この先の天草の子供たちがよこした葉書が十枚ばかり、なくなってしもうたとですよ」
節 子 「そんな大騒ぎする程のことでもないじゃないの」
紋 太 「いや、あれがないと、折角葉書よこした子供たちを訪ねてやることが出来まッせん」
節 子 「平気々々。ケー100が天草を一廻りすれば、子供たちの方からケー100に集まって、名乗り出るわよ」
紋 太 「それもそうですのう、ハハハ。じゃッどん、さっき汽笛が鳴ったとです。もし誰かが持って行ったとするなら?」
節 子 「そんな使用済みの葉書なんか取っていくようなもの好きは、あッ、あのペテン師よ、きっと!」
紋 太 「うむ!もしそうなら、あいつはあの葉書をどげんするつもりじゃろ?」
節 子 「兎に角、追わなくちゃ!」
 
5 二号橋・三号橋・四号橋・五号橋
 
紋太と節子を乗せて走るケー100
紋太の声 「この天草地方からきた手紙のうち、一枚だけ一寸不思議な葉書があったとです」
 
6 崎津天主堂・付近
 
タイトル『崎津天主堂』
タクシーから降り立つ正彦、例の十枚ほどの葉書を見ながら、
正 彦 「ふーむ、絵だけで文章が何も書いていないのは、一寸珍しいなァ……」
ケー100の絵だけが描かれた葉書。
正 彦 「一体どういう子供なんだろ?」
 
7 ナオコの家の内
 
壁に乗り物の絵が沢山貼ってあり、縁側で新幹線の絵を描いているナオコ(十才)
 
8 崎津天主堂・付近
 
正彦、その葉書を眺めていて、
正 彦 「これはあとまわしだ(別の一枚を見て)崎津××番地はこの辺だな」
前方からくる学校帰りの男の子が三人(六年生)
正 彦 「あ、きみたち、下島久男という子供を知らんかね?」
久 男 「ボクだよ。あゝ、それはボクがケー100に出した手紙だ!」
正 彦 「おお、きみが下島久男くんか。きみはなんというラッキーな少年だ!ボクはね、ケー100のマネージャーの石橋正彦。久男くん、やあ、おめでとう!」
久男は怪訝そうに握手に応じて、
久 男 「おめでとうって、何が?」
正 彦 「きみは全日本ケー100友の会、天草地区代表に選ばれたんだ」
久 男 「へーえ!それ、どういうこと?」
正 彦 「いいかね、ケー100は沖縄に行ったあと、バラバラに解体されて、その一つ一つを、日本中のケー100ファンの代表者に、記念として贈られることになったのです」
久 男 「えっ、本当?!」
正 彦 「(大きく頷きながら手帖を出し)久男くんはケー100のどこの部分を望むかね?」
久 男 「凄いなあ!ボク、煙突!」
正 彦 「(メモしながら)天草地区代表は煙突か。オーケー。これでケー100の煙突は永久にきみのものだ」
少年A 「久男、ついてるなあ!」
少年B 「よかったなあ!」
久 男 「うん!夢みたいだ!」
正 彦 「ところで久男くん、沖縄から天草まで煙突の送り賃として(計算機を操作して)コンポー代と送料をプラスすると、千二百五十円になるが、このお金はきみに出してもらわにゃいかんのだが、いいかな?」
久 男 「いいけど、いつ出すの?」
正 彦 「今日、頂戴する。引き換えに、この紋太さんの名前と判を押した領収証を、君に渡す。これで、きみは煙突を貰う権利を獲得したことになる」
久 男 「分かった。家へお金を取りに行ってくるから、待っててね!」
正 彦 「オーケー、オーケー。千二百五十円。いいねッ?」
 
9 ナオコの家の近く
 
正彦が金を数えながらやって来る。
正 彦 「四人の子供から合計五千八百三十円か。悪くないな(金はしまって葉書を出し)あと、この近くに住んでいるのは、この子だけか」
と、例のケー100の絵だけの葉書。
 
10 ナオコの家。前の道
 
紋太と節子を乗せ、徐行してくるケー100。
紋 太 「このケー100に宛てて日本中から数え切れない程の手紙が来て、これから廻っていく鹿児島県と沖縄からだけでも、そげに沢山きちょってて」
節子の膝の三百枚程の葉書。
紋 太 「どの葉書にもケー100に是非きてくれとか、人目逢いたいとか、必ず書いてあるのに、文章が何も書いてないのは、日本中でその葉書たった一枚だけでした」
節 子 「どういうのかしら?ケー100にきて貰いたくないのかしらね」
紋 太 「それがわからんから気になるとです。確か、住所は崎津という所でした」
一軒の家からエプロンをかけた三十才程の主婦正代が、
正 代 「あっ、ケー100だわ!ケー100ですね!」
と、飛び出して来る。
紋 太 「(停めて)はい。そうですが」
正 代 「(家をふりかえり)ナオコッ、来たわよケー100が!ナオコッ」
縁側で新幹線を描いてたナオコ、チラと表を見るが、また描き続ける。
正 代 「(紋太に)ごめんなさい。うちの子供が、ケー100の絵をかいた葉書を出したんですけど」
紋 太 「ああ、お宅のお嬢さんでしたか!」
節子と顔を見合わせて頷き合う。
紋 太 「実は今も噂をしながら、やって来たところです」
正 代 「ナオコッ……ナオコッ(呼びかけるが娘は来ない)すみません、折角きて頂いたのに」
節 子 「じや、お嬢さんは、必ずしもケー100に逢いたい訳でもなかったんですのね」
正 代 「いいえ、それが……うちの娘は、学校の先生からも、このままでは自閉症になってしまう、といわれているのです」
紋 太 「自閉症?」
節 子 「じや、誰ともお友達にならず、一人で閉じこもってばかりいる」
正 代 「はい……小さい頃、体が弱かったので、家の中でばかり遊ばせていた、悪かったんです」
紋 太 「そりゃ、いかん。多勢の子供とお友達になって貰わにや!先ず手始めに、ケー100と友達になって貰わにや!」
と、庭へ入って行く。節子と正代も続く。
 
11 同。縁側
 
紋太たち三人、やって来る。
顔を上げずに絵を描き続けるナオコ。
紋 太 「ナオコちゃん、ケー100がナオコちゃんとお友達になりたがちょるよ。なあ、ケー100」
ケー100、ピーピーと汽笛。
紋 太 「ほら、ケー100が返辞をしちょる」
ナオコ、全然顔を上げない。
節 子 「ナオコちゃん、ケー100がね、ナオコちゃんを乗せて、その辺を一廻りしたいんだって、ほら」
ピーピーと汽笛。
ナオコ、顔もあげない。
正代、二人に向って顔を横にふる。
紋太と節子、顔を見合わせて溜息。
 
12 同。表の道
 
例のナオコの葉書を手に、角から現れる正彦。
ケー100を見てアッと逆戻り。
物陰に身をひそめて、
正 彦 「うーむ、もうきていたのか!はやいとこズラカラないとヤバイな!……待てよ!」
ケー100の助手席に置いてある三百枚程の葉書の束。
正 彦 「あの葉書をそっくり頂いて、ケー100よりもひと足さき廻りして(計算機をポンポンと叩き)今日と同じ手口で鹿児島と沖縄の子供からガッポリ稼がせて頂くか」
と、ケー100にしのびよる。
紋 太 「(庭先から)じや、ナオコちゃん、ケー100を浜辺に置いておくからね。誰もそばに近よらないからね。誰もそばに近よらないから、ナオコちゃんが一人でケー100の所へ遊びにきてくれないかなあ」
と、いいながら、節子と共に出てくる。
正彦、慌てて逆戻り。
 
13 入り江の砂浜
 
ポツンとケー100が置いてある。
一方から、そろそろケー100に近づくナオコ。
物陰にひそんで見守る紋太と節子。
ナオコ、ケー100に近ずき、少し距離をおいてケー100を眺める。
その時、別の方からわーっと駆けよる十人程の子供たち。久男もいる。
「ケー100だ!」「ケー100だ!」
ナオコはサッと警戒するようにその方を見て、足早にきた方へ去ってしまう。
溜息をつく紋太と節子。
子供たちはケー100に乗ったりしてケー100にむらがる。
紋太と節子、ケー100の方に出て行く。
久 男 「あっ、紋太さんだ!伊賀山紋太さんだねッ」
紋 太 「やあ、こんにちわ」
久 男 「紋太さん、ボクを天草地方の代表者に選んでくれて有難う!煙突はボクの物だよ」
少年甲 「おい、煙突はボクのだぞ!」
少年乙 「天草地方の代表者はボクだぞ!」
少年丙 「いや、代表者はボクだ!」
と、三人領収証を示す。
紋 太 「待った待った!一体それはなんの話じゃ?!」
 
14 入り江を見下ろす岬の斜面
 
ひそんでケー100を見下ろしてる正彦。
正 彦 「うーむ、こりゃ、足もとに火がついてきたかな?」
 
15 入り江の砂浜
 
ケー100と紋太、節子を囲む子供たち。
紋 太 「うーむ、あのペテン師、やりおったな!みんな、聞いてくれ。誠にすまんが、きみたちはペテン師にだまされたんじゃ」
子供たちの驚き。
紋 太 「ボクがあいつを捕まえてきて、お金は必ず払わせる。もしもあいつが捕まらない時は、お金はボクが払う。嘘じゃない。約束する。ボクが必ずここへ戻るという証拠に、ケー100はここへ置いていく。節子さんッ」
節 子 「ええ、ふた手に分かれて探しましょう」
紋 太 「きみたち、必ず戻るからねッ」
紋太と節子は左右に別れて駆け出す。
子供たち、それを見送って、
久 男 「そうだ。おい、ボクたちも手分けをして、あのペテン師を探そう!」
子供たち、同意して四方に散る。
正彦、笑顔で呟きながら斜面を降りてくる。
正 彦 「これで、あの葉書は頂きだ、しめしめ」
先刻去った方の物陰にひそみ、茫然と正彦の出現を瞶めているナオコの、大きく見開かれた眸。
 
<C・M>
 
16 入り江の砂浜(前シーンのつづき)
 
正彦、ケー100に近づく。
と、不意にケー100が動き出して、正彦に突ッかかって行く。
正 彦 「あっ、危ない!」
体をかわしてよける。
物陰で茫然と眺めているナオコ。
ケー100はUターンしてまた正彦に向かっていく。
正彦、正面からくるのを体をかわし、
正 彦 「よーし、あのライトに、これをかぶせて……」
と、上着を脱ぎ、両手で持つ。
ケー100はUターンして正彦に向かってくる。
正彦、両手で持った上着で、闘牛士のようにケー100を受け流し。
正 彦 「……あっ、闘牛士だ!ケー100を牛の替わりにして、闘牛を見せ物にするのだ!うむ、こりゃガッポリ儲かるぞ!」
また正彦に向かってくるケー100のライトに、サッと上着をかぶせて、上着の両袖で素早く上着が落ちないように、ライトごと縛って、運転席に坐り、
正 彦 「よーし、これでケー100はボクの物だ!日本中、闘牛士の見せ物を公開して歩くのだ!ヤッホー!」
 
17 ナオコの家
 
駆け込むナオコ。机の前に坐って涙ぐむ。
正代、台所の方から現れて
正 代 「どうしたの?」
ナオコ 「ケー100が……ケー100が」
正 代 「ケー100がどうしたのよ」
ナオコ、無言で涙ぐむばかり。
正代、溜息をついて台所へ戻る。
 
18 本渡市の街通り
 
タイトル『本渡市』
通行人に手で形を示し何か聞いてる紋太。通行人は首を横にふって去る。 
紋太、足早にまた歩き出す。
と、青年が駆けてきて、通行人に、
「おーい、機関車が闘牛する見せ物がかかってるぞォ」
と、一方へ駆け出し、通行人の学生や子供もその方へ駆け出す。
紋 太 「機関車が闘牛を?……機関車?!」
慌ててその方へ駆け出す。
 
19 広場
 
ライトに正彦の上着をかぶせられたケー100が、広場中央にあり、それを取りまく群衆の間を、アタッシュケースを持った正彦が口上をのべながら金を集めて歩いている。金はケースの中へ。
正 彦 「ささ、御当地の皆さん、機関車と人間の闘牛が始まるよ。大人は百円。子供は五十円。人間が機関車に倒されるか、機関車が人間に倒されるか、機関車の闘牛が始まり始まり!さあさあ、大人は百円、子供は五十円!」
バラ銭がうず高く集まったアタッシュケースを持ち、正彦は中央のケー100の所へ戻ってくる。
その金を手ですくい、
正 彦 「(呟く)この調子で日本全国廻ったら笑いが止まらないね、ふふ」
ケースの蓋をしめ、ケー100の助手席に置き、運転席に置いてあった赤いマントとフェンシング用の剣を取り、それを持って見物に向い、
正 彦 「お待たせいたしました。では、唯今より人間対機関車、世紀の大決闘を開始します。先ず、これなる機関車ケー100は、これなるライト(剣で示す)を覆われていると神通力を失って唯の平凡な機関車にすぎません。が、覆いを外せば、あーら不思議、誰も運転しないのに一人でに動き出すのであります。では、世紀の一瞬、唯今よりケー100に生命を与えます!」
と、ライトを包んでいた上着を取り、素早くケー100の横に廻り、上着を運転席に放りこみ、赤いマントをかざしてケー100の正面で身構える。
正 彦 「さあ、こい、ケー100!」
固唾を飲む群衆。
正彦は闘牛士がするように、トンと地を蹴って、
正 彦 「ケー100、こい!」
ケー100は全然動かない。
弥 次 「どうした!」
「うごかんじゃないかァ!」
正 彦 「いや、ケー100は大変デリケートな神経の持ち主でありまして……(ケー100に近づき)おい、ケー100ちゃん頼むよ、ねッ」
と、カマを軽く叩く。
ケー100、動かない。
弥 次 「早く始めろ!」
「インチキじゃないのかッ」
「ゼニ返せ!」
正 彦 「いやいや、暫く暫く。決してインチキでもイカサマでもございません。この野郎、動け!」
と、ケー100のタイヤを蹴る。
ケー100、動かない。
群衆からさまざまな野次に正彦、慌てる。
その時、群衆をかき分けて駆けこむ紋太。
正 彦 「あっ、紋太さん!……!」
紋 太 「このペテン師め!」
正彦はマントを紋太にかぶせるように放り投げ、紋太が狼狽してる間に、ケー100の内からアタッシュケースと上着を引つかみ、剣を捨てて一目散に逃げ出す。
弥 次 「おい、どうしたんだ!」
「金返せェ」
紋 太 「皆さん、申し訳ありません。今の男はペテン師です。
弥 次 「お前も仲間だろう!」
紋 太 「いえ、違います」
弥 次 「早く闘牛始めろッ」
紋 太 「皆さん、このケー100は見せ物ではないのです!」
弥 次 「じゃ、金返せェ」
紋 太 「お金は……ボクが働いて、必ずお返しします」
弥 次 「いいから闘牛を見せろッ」
紋 太 「然し、このケー100は……」
その時、ピーピーと汽笛。
「えっ?お前は、ボクの立場を救うために、闘牛をするというのかい?」
またピーピーっと汽笛。
紋 太 「そうか……よし。皆さん、では、闘牛をやってみます。但し、お金はボクが働いて必ずお返しします」
紋太は剣を持ち身構える。
紋 太 「こい、ケー100」
ケー100、動き出して紋太に突っかかる。
紋太、マントをひるがえし体をかわす。
固唾を呑む見物たち。
Uターンしたケー100、紋太に突かかる。
紋太、体をかわす。
ケー100、Uターンする時にカマの正面の蓋が開き、そのまま紋太に突っかかる。
紋太は体をかわしながら、開いた蓋の隙間からカマの中へ剣を突き入れる。
ケー100はガタリと停止し、ピーと長い汽笛が鳴って、やがて汽笛も止まる。
見物人、やんやの大喝采。
弥 次 「金は返さんでいいぞ!」
「そうだ。お前がとったんじゃないからなッ」
紋 太 「(ケー100に近づいて)すまん、こげなことまでさせて……」
 
20 少し離れた電柱(又は木の上)
 
高い場所に登って、まだ鳴りやまぬ喝采を見下ろしている正彦。
正 彦 「うむ、何がなんでもケー100を手にいれにゃ!」
 
21 崎津の魚市場
 
紋太が掃除をして働いている。
物陰から、学校通りのナオコがじっつと見ている。
紋太、ナオコと視線が合う。
紋 太 「やあ、ナオコちゃん」
ナオコ、去ろうとするがふり返り
ナオコ 「……何故、こんな所で働いてるの?」
紋 太 「ペテン師がだましたお金を、働いて返すのさ」
ナオコ 「何故、紋太さんが?」
紋 太 「ボクは日本中の多勢のお友達にケー100を見せるために、旅行しているんだよ。ケー100は、人に迷惑をかけちゃいけないんだ。ケー100はみんなの友達だからね。」
ナオコ、視線を伏せたまま去る。
 
22 空 地
 
ナオコ、やってきて前方を見てハッと立どまる。
正彦が釣り竿の先に大きな紙袋をさかさにして吊し、それを、ケー100のライトにかぶせているのだ。
ナオコ、きた方へ駆け戻る。
正彦、それを見咎める。
 
23 魚市場
 
紋太が空箱を積み重ねている。
駆け戻ったナオコ。
ナオコ 「紋太さん、大変!あのペテン師がケー100に変なことしてる!」
紋 太 「ええっ!」
ナオコ 「(一方を指さして)あっちよ」
紋 太 「有難う!もう許せんぞ!」
と、その方へ駆け出す。
 
24 漁師町の狭い路地
 
紋太駆けてくる。
と、頭上から網が落ちてきて、紋太は網の中に入ってしまい、もがく。
屋根の上からポンと飛び降りる正彦。
正 彦 「紋太さん、悪いねえ」
と、網ごと紋太を縛り始める。
紋 太 「こら、やめろ、ペテン師!」
正 彦 「ケー100は頂きますからね、へへ」
 
25 空 地
ライトを紙袋にかぶせたケー100の所へ正彦が戻ってきて、ケー100に、
正 彦 「さあ、今日から御主人はこのオレ様だぞ、分かってるな」
 
26 漁師町の狭い路地
 
ナオコ 「こっちよ!」
と、節子と正代、久男たち数人の子供を案内して駆けてきて、網ぐるみ縛られた紋太を発見。
節 子 「あら、紋太さん!」
 
27 空 地
 
正彦がマントと剣を手にケー100の前で闘牛士気取りのゼスチュアをしている。
正 彦 「これで金のなる木を手にしたも同然だ。ウハハハハ」
紋太を先頭に駆けつけるナオコ、節子、正代、久男たち数人の子供。
紋 太 「こら待て!」
正彦、マントと剣を燃料置き場に放り込み、運転席に飛び乗ってエンジンをかける。
紋 太 「(正面に立ちはだかり)ケー100を自由にはさせんぞ!ケー100、動くな!」
正 彦 「ハハハ、お気の毒だけど、今のケー100はメクラも同然でね。紋太さんの言うことなんかきかないさ」
と、発車させて、紋太に向かって進む。
紋 太 「あっ、ケー100、とまれ!」
正 彦 「駄目々々。分かってないんだなあ」
と、グングン紋太に向かう。
紋太、ケー100の方を向きながら、後じさりするように逃げるが、足がもつれて倒れる。
ケー100は紋太の上に前車輪が乗る形でとまる。紋太、動けない。
息を呑むナオコたち。
正 彦 「(運転席から)紋太さん、ケー100をボクに譲ってくれるなら、どかしてあげるよ」
紋 太 「黙れ!ボクは死んでもケー100は渡さんぞ!」
正 彦 「渡すも渡さないも、ケー100を運転しているのはボクなんだよ。もっと冷静に事実を認めなきゃ」
その会話の間に、ナオコがケー100の後方にそっと、しのびよる。
正 代 「(茫然と)ナオコ」
ナオコは燃料置き場からはみ出している剣のツカを握り、ケー100の前面駆けて行き、剣の先で、ライトにかぶさった紙袋を突き破る。
途端にピーポーと汽笛が鳴ってケー100は後退い、ケー100は上下左右に揺れ動いて正彦を振り落とす。
子供たち、わーっと駆けよって、倒れている正彦を殴り始める。
その情景を写す節子。
一方、起き上がっていた紋太は、体の埃を払いながら正彦に近づき、
紋 太 「おいッ、子供たちからまき上げたお金を返せ!ッ」
正 彦 「あ、あの中に。紋太さん、助けてえ!」
ケー100の助手席のアタッシュケース。
紋 太 「(子供たちに)もういい、やめなさい」
子供たち、殴るのをやめて、
ナオコ 「(頬を輝かせ拳を固め)わたしね、二つも三つも叩いちゃったの!」
久 男 「ナオコちゃん、よくやったよなア」
ナオコ 「そうでもないけど、わたしが叩いたら、あのペテン師、ヒーヒー泣いたわ、ふふふ」
正 代 「(茫然と)ナオコがお友達と話をしている!……紋太さん、ナオコが!」
紋太、微笑で頷く。
子供たちはアタッシュケースを取り、一方に行き、中から金を出して分け始める。
ナオコも仲間に加わって見ている。
それを眺めて嬉し涙状態の正代。
紋太も大きく頷いている。
その隙に、這って逃げ出す正彦。
  
28 天草五橋・五号橋
 
紋太を乗せて去るケー100。
見送るナオコ、久男たち子供と、正代。
ナオコ 「紋太さーん、さようならア」
正 代 「有り難うございました!お陰様で、お陰様で!……」
 傍の物陰で、乱れた頭髪をなでつけてる正彦。
正 彦 「冗談じゃない。お陰様でこっちはセットは乱れるし、頭はコブだらけだ。この借りは必ず返すからねッ」
子供たちに見送られて去るケー100。
その情景を写している節子。
<つづく>